SPICES
SPICESスパイスの歴史と現在
スパイスはかつて薬でした。いま再び「効く」と語られています。歴史をたどり、確かめられていることとまだ言えないことを分けて、台所での使い方に落とします。
スパイスは「少量で強く香る植物」
スパイスとは、植物の種子・実・樹皮・根・葉のうち、少量で強い香りや辛味を持つものの総称です。植物がつくる香りや辛味は、本来は虫や動物から身を守るための化学物質。人はそれを、食べ物の保存・臭み消し・薬として使ってきました。 ここに、スパイスを考えるときの出発点があります。効くほど強い成分を持つが、使う量はごく少ない。だからスパイスは「食べ物」と「薬」のちょうど境目にいます。料理に使う量では効果は穏やかで、効果を出すほど摂れば刺激や副作用が出る。この距離感を忘れると、「効能」の話は簡単に行きすぎます。
薬だった時代、調味料になった時代
スパイスが「体に効く」という感覚は、新しいものではありません。むしろ人類史のほとんどの期間、スパイスは薬でした。
エジプトではクミンやシナモンが防腐と薬に、インドのアーユルヴェーダではターメリックや生姜が処方に。中国の医学書『神農本草経』には生姜・桂皮・山椒が生薬として載る。
インドから運ばれた黒胡椒はローマで金と並ぶ価値を持ち、大プリニウスは「ただ辛いだけのものに大金を払う」と嘆いた。
胡椒が家賃や持参金に使われ、香辛料は「体液のバランスを整える薬」として医師が処方した。ペストの時代には香りが病を遠ざけると信じられた。
コロンブス、ヴァスコ・ダ・ガマ、マゼラン。航海の目的の第一は香辛料だった。唐辛子はコロンブス以後わずか数十年でアジア全域の食文化を塗り替える。
化学が有効成分を取り出し、薬は合成されるようになる。スパイスは「薬」の座を降り、「香りと味」の調味料になった。
クルクミン・カプサイシン・ジンゲロールが研究対象になり、「スパイスは体に効く」という期待が再び広がる。ただし研究の多くは高用量の抽出物で行われている。
つまり現代の「スパイスの効能」ブームは、薬だった時代の記憶が、研究という新しい言葉で戻ってきたものです。記憶は正しい部分もあれば、大きく言いすぎている部分もあります。次に、その仕分けをします。
研究の積み重ねがあること
妊娠中のつわり、乗り物酔い、抗がん剤治療にともなう吐き気を和らげることは、複数の臨床試験で確かめられている。スパイスのなかで最も根拠が厚い。
山椒を主成分とする漢方薬(大建中湯)は、腹部手術後の腸の動きを助ける目的で医療の現場でも使われる。
香りと辛味があると薄味でも満足しやすい。「塩と砂糖を減らせる」ことは、どのスパイスにも共通する、地味だが確かな働き。
ピペリンがクルクミンなどの代謝を遅らせ、血中濃度を上げることが示されている。台所の組み合わせに理由があった。
皮膚に塗るカプサイシンは関節や神経の痛みに医療で使われる。痛みの信号を鈍らせる働きは確か。
よく聞くけれど、そのままは言えないこと
クルクミンの抗炎症作用は細胞・動物では繰り返し示されているが、腸からほとんど吸収されない。ヒトでの結果は高用量の抽出物や吸収を高めた製剤によるもので、料理の量で同じことは起きない。
空腹時血糖がわずかに下がった報告はあるが、研究の質はまちまちで効果は小さい。安価なカッシア種はクマリンを多く含み、毎日小さじ1杯以上は肝臓への負担が懸念される。
カプサイシンで消費エネルギーは増えるが、1日数十kcal程度。体重を変える力はない。
体温のわずかな上昇を大きく言いすぎたもの。効果は穏やかで、量も少ない。
高用量の抽出物は薬の代謝に影響したり(ピペリン)、胆石や出血傾向のある人に向かなかったり(クルクミン)する。「食べ物として使う量」と「サプリの量」は別の話。
Mitoflow40の立場:スパイスは薬ではなく食べ物です。「効能」より「働き」と呼び、料理の量で期待できることを正直に書きます。確かなのは、塩と砂糖を減らし、消化を助け、食事を楽しくすること。それだけでも十分に価値があります。
台所で使う 8 つのスパイス
それぞれの歴史・確かめられていること・使い方を 1 枚ずつ。
気をつけたいこと
乾燥した輸入スパイスは、カビ毒(アフラトキシンなど)や鉛の混入が報告された例がある。信頼できる産地・製造者のものを、少量ずつ買って早めに使い切る。
唐辛子・黒胡椒・生姜は胃粘膜を刺激する。胃炎・逆流・痔のある方は控えめに。空腹時の大量摂取は避ける。
生姜・ターメリック・シナモンは血液をさらさらにする薬(ワルファリンなど)の作用を強めることがある。大量に摂る前に主治医へ。
料理の量なら問題ないとされるが、山椒・シナモンの多量摂取や高用量サプリは避ける。
暮らしへの、やさしい取り入れ方
効くスパイスを探すより、塩と砂糖の代わりに香りを使う。それが 40 代の台所でいちばん確かな使い方です。
香りと辛味があると薄味でも満足しやすい。まず「塩をひとつまみ減らして、香りをひとふり足す」から。
コーヒー・ヨーグルト・煮込みに。甘い香りが甘さの記憶を補う。毎日使うならセイロン種を。
味噌汁やスープにすりおろし生姜。冷えによる腹の張りには山椒。どちらも量は少なめに、毎日。
単独で摂っても吸収されにくい。カレーやスープで、油・黒胡椒・野菜と組み合わせて使う。
香りは飛び、カビ毒のリスクは古いほど増える。粒や種子で買って挽きたてを使うのがいちばん。

