MIND & BODY
NEUROINFLAMMATION神経炎症と心
原因のはっきりしないだるさ・意欲の低下・ブレインフォグ。その裏に、体の「炎症」が隠れていることがあります。炎症は、じつは脳と心にも届くのです。
⚠ 大切な前提:こころの不調は「炎症ケア」より先に
このページは「炎症と心の関係」を説明するものです。でも、うつや強い気分の落ち込みは、サプリや食事の炎症ケアで自己対処すべきものではありません。次のようなときは、ためらわず専門家・医療機関(精神科・心療内科)へ。
- ●気分の落ち込み・意欲のなさが2週間以上続く
- ●眠れない/眠りすぎる、食欲が大きく変わる、何も楽しめない
- ●「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」という気持ちがある
つらい気持ちが強いときは、「いのちの電話」やお住まいの地域の相談窓口もあります。ひとりで抱えないでください[4]。
炎症は本来、体を「守る」しくみ
ケガや感染のとき、患部が赤く腫れて熱をもつ——これが炎症です。免疫が敵と戦い、傷を修復するための、本来は大切な「守りの反応」。短期間で役目を終えて引いていくぶんには、むしろ必要なものです。 問題になるのは、はっきりした原因がないのに弱い炎症がだらだらと続く「慢性炎症」です。自覚症状が乏しいまま体の中でくすぶり、老化や生活習慣病の土台になることが知られています。そして近年わかってきたのが、その炎症が「脳と心」にも影響するということです。
「サイトカイン」という、炎症の連絡係
炎症のとき、免疫細胞はサイトカインという小さなタンパク質を出して、「いま炎症が起きている」という情報を全身に伝えます。いわば体内の連絡係です。代表的なのが、次の炎症性サイトカインです。
炎症の代表選手のひとつ。慢性炎症やストレスで増え、気分・意欲との関連が研究されている。
強い炎症シグナルを担うサイトカイン。過剰だと全身のだるさや代謝の乱れにつながる。
発熱やだるさ(病気のときの感覚)を引き起こす、強力な炎症の引き金。
これらサイトカインが働いた「足あと」として、肝臓はCRP(C反応性タンパク)を作ります。だから血液検査の高感度CRP(hs-CRP)を見ると、自覚のないくすぶる炎症の温度をある程度はかることができます[3]。
炎症は、どうやって「脳」に届くのか
脳は血液脳関門という関所で守られていますが、それでも体の炎症はいくつかの道で脳に伝わります。サイトカインが直接・間接に脳へ信号を送り、迷走神経という「腸や内臓と脳をつなぐ神経」も炎症の知らせを脳へ運びます。
その知らせを受けて活性化するのが、脳の中の免疫細胞ミクログリアです。ミクログリアは普段、脳の見回りや手入れをしていますが、炎症の信号が続くと脳の中でも炎症的な状態になります。これが神経炎症(ニューロインフレメーション)です。短期なら適応的ですが、慢性化すると神経の働きや気分に影響しうる、と考えられています。
「風邪のときのあのだるさ」が、ヒント
熱が出たとき、横になりたい・何もやる気が出ない・食欲がない・人と関わりたくない——そんな経験はだれにでもあります。これは気のせいではなく、サイトカインが脳に働きかけて起こす「病気のときの行動(sickness behavior)」という、れっきとした反応です[1]。 本来は、体を休めて治癒に専念させるための、賢い省エネモードです。問題は、慢性炎症によってこの「だるさ・意欲低下」モードが、弱いまま長く続いてしまう場合。気分の落ち込みや「やる気が出ない」状態と、見分けがつきにくくなります。
炎症と、気分・ブレインフォグの関係
研究では、うつの人の一部で、IL-6やCRPといった炎症の指標が高い傾向が報告されています。また、炎症性サイトカインを薬として投与すると、一部の人にうつ症状が現れることも知られています。ここから、「炎症が、ある種のうつや気分の落ち込みに関わっているのではないか」という考え方(炎症仮説)が注目されています[2]。 背景のひとつとして、炎症が起きると、心の安定に関わるセロトニンの材料(トリプトファン)が別の経路に回されやすくなることなどが研究されています。集中力が落ちる「ブレインフォグ」や、原因不明の疲労感の一因としても、神経炎症が議論されています。 ただし大切なのは、「うつ=すべて炎症が原因」ではないということです。これは関係のひとつであって、炎症を抑えればうつが治る、という単純な話ではありません。あくまで「体と心はつながっている」という視点として受け取ってください。
その炎症は、どこから来る?
慢性炎症の火種は、特別な病気でなく日々の暮らしの中にあることが多いものです。だからこそ、ここは整えられる余地があります。
測って、土台から整える
うれしいことに、慢性炎症は生活習慣に素直に反応します。まずはhs-CRPなどで現在地を知り、睡眠・運動・食事・腸・ストレスという土台を整えていく——それが、体だけでなく脳と心の余裕を取り戻す近道になりえます。
※ 本記事は一般的・教育的な情報であり、診断・治療に代わるものではありません。炎症とうつ・脳の関係は研究の途上にあり、「炎症を抑えれば心の不調が治る」という意味ではありません。気分の落ち込みやつらさが続くときは、自己判断のサプリや除去ではなく、必ず医療機関・専門の相談窓口にご相談ください。
参照
- [1]From inflammation to sickness and depression(炎症・病気行動・うつのつながり) — Dantzer et al., Nature Reviews Neuroscience(2008)
- [2]The role of inflammation in depression(うつにおける炎症の役割) — Miller & Raison, Nature Reviews Immunology(2016)
- [3]C-Reactive Protein (CRP) Test(CRP検査と炎症の見方) — MedlinePlus(米国国立医学図書館)
- [4]Depression(うつ病の基礎と受診の目安) — MSD Manual 家庭版

