MIND & BODY

MIGRAINE片頭痛と体

ズキズキと脈打つ痛み、吐き気、光や音のつらさ——片頭痛は「ただの頭痛」ではなく、脳とエネルギー代謝が関わる神経の不調です。

⚠ こんな頭痛は、すぐに受診を

次のような頭痛は、片頭痛ではなく命に関わる病気のサインのことがあります。ためらわず医療機関(救急)へ。

  • 突然、バットで殴られたような「これまでで最悪」の激しい頭痛
  • 手足の力が入らない・しびれ・ろれつが回らない・物が二重に見える
  • 高熱や首の硬さ(うなじが曲げにくい)を伴う
  • 頭を打ったあとの頭痛、けいれんや意識のもうろうを伴う
  • 50歳を過ぎてから初めて出た頭痛、だんだん強く頻回になる頭痛

片頭痛は「ただの頭痛」ではない

片頭痛は、片側または両側がズキズキと脈打つように痛み、体を動かすと悪化し、しばしば吐き気・光や音への過敏を伴います。数時間〜2〜3日続くこともあり、女性に多いのが特徴です。一部の人は、痛みの前にギザギザの光が見える「前兆(オーラ)」を経験します[1] 単なる「疲れ頭痛」と違い、片頭痛は脳の神経と血管、そしてエネルギー代謝が関わる現象だと考えられています。「気のせい」でも「我慢する根性の問題」でもありません。まずは引き金(トリガー)を知ること、そして適切な診断・治療につなぐことが出発点です。

なぜ起きる?——神経・血管・気圧のしくみ

片頭痛は、かつて「血管が広がって痛む病気」と説明されていました。いまは、神経の引き金と、血管の反応の両方が関わると考えられています(神経血管系)。神経が興奮し、それが血管の拡張・炎症を呼ぶ——その中心にあるのが三叉神経血管系です[1]

① 神経が興奮する

ストレス・睡眠・空腹・気圧などの引き金で、脳の神経が過敏になり、興奮の波が広がる(前兆=オーラのもとになる現象)。

② 血管がゆるみ、炎症が起きる

三叉神経の先から「CGRP」という物質が放出され、脳をつつむ血管が広がり、まわりに炎症が起きる。この拍動が、あのズキズキとした痛みになる。

③ 痛みが増幅される

一度始まると痛みの回路が過敏になり、光・音・においまでつらく感じる。近年の新しい予防薬・治療薬は、この「CGRP」を狙って効く。

では低気圧・天気はどう関わるのでしょう。はっきりした仕組みはまだ研究中ですが、気圧の変化を「内耳」が感じ取り、自律神経のバランスが乱れることが、上の引き金になると考えられています(いわゆる「気象病・天気頭痛」)[4]。台風や梅雨、季節の変わり目に頭痛が増える人が多いのは、このためとされています。気圧そのものは変えられませんが、気圧予報アプリで「来る日」を予測して備える、睡眠・水分・血糖を整えておく、といった対策はできます。

引き金(トリガー)を知る

トリガーは人それぞれ。頭痛ダイアリーで「何の後に起きたか」を記録すると、自分のパターンが見えてきます。

ミトコンドリアと栄養の視点

近年の研究では、片頭痛の脳はエネルギー(ATP)をつくる効率がやや低下しているのではないか、という「ミトコンドリアのエネルギー不足」仮説が注目されています。だからこそ、エネルギー代謝を支える栄養素が予防の研究対象になってきました[2] 実際、海外の頭痛ガイドラインでは、いくつかの栄養素が片頭痛予防に有効な可能性があるとされています[3]

※ これらは「効く可能性が研究されている」段階で、すべての人に効くわけではありません。予防に用いる量は食事で摂る量より多いことがあり、下痢などの副作用・薬との相互作用・妊娠中の注意もあります。サプリでの摂取は自己判断せず、必ず医師・薬剤師に相談してください。

研究でわかってきたこと

片頭痛は「気のせい」どころか、世界中で研究が進むれっきとした神経疾患です。近年わかってきた主なことを、出典つきで整理します。

世界で「最も生活に支障を与える病気」の上位[5]

WHOによれば、片頭痛は世界でもっとも一般的な病気のひとつで、障害(生活への支障)の主要な原因とされています。とくに50歳未満の女性で負担が大きく、女性は男性のおよそ2〜3倍多いとされます。

前兆(オーラ)の正体は「脳を広がる波」[2]

ギザギザの光などの前兆は、脳の表面をゆっくり伝わる神経活動の波(皮質拡延性抑制)によるものと考えられています。1940年代に発見され、いまは画像でも捉えられています。

CGRPの発見が、治療を大きく変えた[1]

痛みに関わる物質「CGRP」を狙った予防薬・治療薬(抗体薬やジェパントなど)が2018年以降に登場し、片頭痛治療は新しい時代に入りました。

遺伝の影響は、思った以上に大きい[6]

一部にはひとつの遺伝子が原因の型(家族性片麻痺性片頭痛)があり、さらに大規模なゲノム研究で100を超える関連領域が見つかっています。「体質」には確かな遺伝的背景があります。

脳の「エネルギーの余裕」が少ない可能性[2]

画像研究では、片頭痛の脳はエネルギー(ATP)の余裕がやや少ないことを示すものがあり、これが代謝を支えるB2・CoQ10などの予防研究の根拠になっています。

低気圧が発作を増やすことを示す研究も[4]

気圧の低下が片頭痛発作を増やすことを示す研究があり、日本国内でも報告されています。「天気のせい」は気のせいではありません。

まず整えたい、土台

薬の前にできることも多くあります。睡眠と食事の時間を一定に保つ、空腹をつくりすぎない、こまめに水分をとる、自分のトリガーを避ける、適度な有酸素運動を続ける——こうした規則正しさそのものが、片頭痛の頻度を下げる土台になります。 逆に注意したいのが「薬の使いすぎによる頭痛(薬物乱用頭痛)」です。市販の痛み止めを月に10〜15日以上のむ状態が続くと、かえって頭痛が慢性化することがあります[1]。痛みの回数が多いときは、我慢や市販薬の常用ではなく、頭痛外来や脳神経内科で相談するのが近道です。

※ 本記事は一般的・教育的な情報であり、診断・治療に代わるものではありません。片頭痛には有効な治療薬(予防薬・発作時の薬)があります。頭痛が続く・強い・くり返す場合や、上記の「危険な頭痛」に当てはまる場合は、必ず医療機関を受診してください。

参照

  1. [1]Resource Library(片頭痛の症状・前兆・薬物乱用頭痛など) — American Migraine Foundation
  2. [2]Mitochondrial dysfunction and migraine(片頭痛とミトコンドリアの関係に関する総説) — PMC / 査読論文
  3. [3]Magnesium, Riboflavin and CoQ10(栄養素による片頭痛予防の解説) — American Migraine Foundation
  4. [4]Weather and Migraine(天候・気圧と片頭痛の関係) — American Migraine Foundation
  5. [5]Migraine and other headache disorders(有病率・障害負担・男女差) — World Health Organization
  6. [6]Genome-wide analysis identifies 123 risk loci for migraine(片頭痛の遺伝的背景) — Nature Genetics(2022)