MIND & BODY
JOGGINGジョギングと体
靴さえあれば、誰でも、どこでも始められる——ジョギングはもっとも原始的で、もっとも手軽な運動です。体に何が起き、「膝に悪い」は本当で、どれだけ走ればいいのか。中立に読み解きます。
歴史——「走る」は、わざわざ取り戻されたもの
人類は本来、長距離を走ることに長けた動物です。汗で体を冷やしながら、獲物が疲れるまで追い続ける——「持久狩猟」という仮説があるほど、走ることは私たちの体に刻まれています。 ところが近代化で日常から「走る理由」が消えると、今度はそれを健康のためにわざわざ取り戻す動きが生まれます。1960〜70年代、アメリカで「ジョギング」が一大ブームになりました。陸上コーチのビル・バウワーマン(のちのナイキ共同創業者)が広めたこの運動は、特別な才能も道具もいらない「誰のものでもある運動」として広がっていきました。ジムの乱立とよく似て、これも失った身体活動の埋め戻しだったとも言えます。
走ると、体に何が起きるか
ジョギングは、酸素を使ってエネルギー(ATP)を作る有酸素運動の代表です。だからこそ、効果は筋肉だけにとどまりません。
持久的な運動は、細胞のなかでエネルギーを作るミトコンドリアの数と働きを増やす(ミトコンドリア新生)。これが「疲れにくい体」の土台になる。
心拍を適度に上げる刺激が、心肺機能を高め、血圧や血糖、脂質の管理にもつながる。
走ったあとの爽快感「ランナーズハイ」は、長らくエンドルフィンのおかげとされてきたが、近年は脳内の「内因性カンナビノイド」の関与が示されている。気分の安定やストレス対処にも役立つ。
「膝に悪い」は本当か
「走ると膝の軟骨がすり減る」——よく聞く通説ですが、研究の結論はむしろ逆に近いものです。約11万人を対象にした系統的レビューでは、趣味で走る人の変形性膝・股関節症は3.5%だったのに対し、運動しない人は10.2%。一方、競技レベルで走りこむ人は13.3%と高くなりました[3]。
関節トラブルの割合(変形性膝・股関節症)
つまり関係は「U字」です。走らなさすぎても、走りすぎても良くない。適度なジョギングは膝にとって「破壊」ではなく、むしろ軟骨や筋肉を保つ「適度な負荷」になります。怖がって動かないことのほうが、関節にも全身にもリスクなのです。
どれだけ走ればいい?——「少しでも効く、でも多ければいいわけじゃない」
うれしいことに、効果を得るのに長い距離は必要ありません。14の研究をまとめた解析では、週1回でも、走る習慣のある人は総死亡が約27%低いと報告されています[1]。コペンハーゲンの大規模研究でも、ジョギングをする人はしない人より寿命が約6年長く、しかも一番得をしていたのは「ゆっくり〜ほどほどのペースで、ほどほどの量」を走る人たちでした[2]。
息は弾むが、隣の人と話せるくらい。きつすぎる必要はない。これが脂肪とミトコンドリアによく効く強度(いわゆるゾーン2)。
健康効果の大半は、無理のない範囲で得られる。記録を狙う競技とは別物として始める。
はじめは歩きと走りを交互に。靴は足に合うものを。痛みが出たら休む勇気を。
長距離をやりこむほど健康になる、ではない。疲労・故障・免疫低下のサインが出たら減らす。
「走らねば」から自由になる
ジョギングの一番の価値は、お金も施設も要らないことです。月会費もマシンも要らず、玄関を出れば始まる。ジムの乱立が「運動をお金で買う」方向だとすれば、ジョギングは運動を生活に取り戻すもっとも素直な方法です。 ただし、「走らねばならない」という強迫になった瞬間、それはストレス源に変わります。タイムや距離はアプリが煽ってきますが、体にとって大切なのは記録ではなく続くこと。走れない日は歩く。それでも十分、体は応えてくれます。
※ 本記事は一般的・教育的な情報です。心臓・関節・持病のある方、運動から長く離れていた方、妊娠中の方は、始める前に医療機関にご相談ください。運動中の胸の痛み・強い息切れ・めまいなどがあれば、すぐに中止して受診してください。
参照
- [1]Is running associated with a lower risk of all-cause mortality?(走習慣と死亡リスクの系統的レビュー) — British Journal of Sports Medicine, 2020
- [2]Dose of Jogging and Long-Term Mortality(コペンハーゲン市心臓研究:ジョギングの量と寿命) — Journal of the American College of Cardiology, 2015
- [3]The Association of Recreational and Competitive Running With Hip and Knee Osteoarthritis(ランニングと変形性関節症) — JOSPT, 2017
- [4]Exercise and mitochondrial biogenesis(運動とミトコンドリアの新生) — PMC / 査読論文
- [5]A runner's high depends on cannabinoid receptors in mice(ランナーズハイと内因性カンナビノイド) — PNAS, 2015

